河川敷の一角がブルーシートに覆われていた。警視庁と書かれたアウターを着た人や、青い作業着を身に着けた人間がカメラで何かを撮影したりしている。黄色と黒の棋聖戦が張られた奥では、壮年の人間たちが眉をひそめていた。何人かは顔色が悪い。
ずっぷりと頭の先から足の先まで水に長時間使っていたらしい男性が横たえられていた。両目を硬質なもので殴りつけられたのか、眼球があったところには青痣と窪みだけがある。口元もしたたかに殴りつけられたのか、奥歯も前歯も、歯という歯がほとんど抜け落ちている。
昨日は前々日から続く激しい雨で、川は増水し、勢いも増していた。男は青ざめた肌をぶよぶよに膨らませている。ただの溺死体にはどうしても見えない彼は、その背と着用していた衣類から、おそらく、と前置きされてから該当しそうな人物の名前を制服警官が告げる。
それは地元では少々名前が知れつつあった金融業者だった。この様な形で死ぬような人物の知れつつある名前というのも、良いことではなく悪い方である。少々どころか結構よろしくない評判がたっている男ではあるが、顔面をここまで潰されるような死に方であるため、思わず同情してしまう人もいた。
「にしても、これ、殴ってから落としたんですかね、溺死のあとですかね……」
「さあな。詳しいのは検死にかけんと分からんよ」
▩▩▩
「おう、弥世。ニュースになっとるぞ」
「でしょ〜? ニュースになるって言ったもんね〜」
ふふーん!
胸を張って弥世はドヤ顔をする。弥世がドヤ顔をして敬司にほめて~、といったのも無理はないのかもしれない。敬司の目の上のたん瘤になりかけていた存在——数か月前から名前が知れ渡りだした金融業者の男を排除したのは、何を隠そう弥世なのだから。一瞬で男の生命をとめたのは弥世、男の顔面をしたたかに殴りつけたのは、弥世の護衛を兼ねた敬司の部下である谷口の部下の男だ。制裁部門でも一、二を争う膂力を持つ男は、なかなか競争率の高い弥世の同伴に選ばれたときは無言でどや顔をしていた。
「あんね、あんね。目と歯はねぇ、すきやが一回でやったんだよ~。ちからもちだよね~」
「数寄屋がついてったんか。あいつ、うまいこと一発で終わらせたんやな」
「そだよ~。くじびきでね、すきやとすずうらのね、いっきうちになった~」
「ほー。鈴浦だったときのも見たかった気はするが……まあ、ええやろ」
よぉやった。そういうと敬司は弥世の頭をなでる。ふにゃふにゃと撫でられてうれしそうな弥世は、すきやもほめてあげて~、という。敬司はおもんな、と思いつつ、あとでほめとくわ、というだけにとどめた。