弥世は暇を持て余していた。年末が迫り来るこの時期、だいたい十二月の中頃に弥世は暇を持て余す日が出てくるのだ。それは、単純に敬司がかまってくれないから暇を持て余しているのだ。弥世はダイニングテーブルに向かう彼を、ごろんと横になったソファーから見つめるだけだった。
「けーじ~まだぁ~?」
「ん、まだ」
「ずーっと年賀状書いてるよ~? きゅーけーしよ~?」
「ん? そんなことあらへんやろ」
「みよひまだよ~」
「悪いな。休みの日に書かんと元旦に届かんくなるからな」
「ぶー……」
弥世がかまって、とアピールしても、普段の敬司とは打って変わってかまってくれない。いつもの彼であれば、こちらが催促しなくてもかまってくれるだけに、弥世としてはさみしいものがある。ぼふぼふ、と柔らかいビーズクッションに埋まりながら、弥世はぶすくれる。むっすりと頬をふくらませて、クッションに顔を埋めたまま、彼女は敬司にパソコンで書いたらだめなの、と尋ねる。
「このあいだねえ、郵便局で年賀状の印刷しますー、って書いてあったよ~? それじゃだめなの?」
「ああ……いや、あかんくはないんやろうけど、こういうモンは手書きのほうが嬉しいもんや」
「そーなの?」
「気持ちの問題やな。ほれ、弥世。お前も会長と若頭たちに一言書け」
「はーい」
クッションをソファーに置いて立ち上がった弥世は、敬司の隣の椅子に腰掛ける。ぷらぷらと足を浮かせて、彼女は敬司から年賀状を渡される。空いとるところに今年もよろしくとか書いとき、と言われた彼女は、ボールペンを握ると丸っこい文字で今年もお願いします、と書く。弥世の大きくて丸っこい文字は、敬司の小さく整った教科書のような文字を押しのけるような元気の良さが伝わる。
年賀状イラストとメッセージを書いても、まだ余白があったため、弥世は小さく馬のイラストを書く。存外にこういったイラストを書くのが得意な弥世は、かわいらしくデフォルメされた馬の横顔をちゃちゃっと仕上げていた。
「みてみて~。かわいいおうまさん書けた~」
「おん、ええやないの。ほれ、こっちも書き」
「……会長のおじーちゃんと、若頭のおじちゃんだけじゃないの~?」
「たーけ。谷口たちにも書いたれ」
お前の分はあと五枚だけや。
そういった敬司は、ボールペンを弥世に渡す。どうやら、弥世が書いたら終わりにするらしい。弥世はわかったぁ、と敬司からボールペンを受け取ると、かりかりと会長と若頭に出すハガキと同じように挨拶と馬のイラストを描いていく。それを見ながら、ほんまはな、と敬司は口を開く。
「ん~?」
「本部長とか、舎弟頭とか、ほかにも顧問とかな、いろんな人に年賀状出すつもりだったんだけどな」
「う~……いっぱいだ~……」
「まあ、さすがに部屋付きとかにはまとめて送るけどな。手書きで書いた方がウケのいい連中には、俺が手で書かなあかん」
「そっかぁ」
「まあ、お前もそんだけ書けば、まあええやろ」
「……ん~? もしかして、みよ、もっと書く予定あった~?」
「おん? 書きたいんか」
ほな、ほかの幹部連中の年賀状も書いてもらおか。
人の悪い顔をした敬司に、や! と弥世はぶすっとふくれっ面をさらす。ぷんぷん、と頬を膨らませてそっぽを向いた弥世に、こら来年も幹部連中に俺が怒られるな、と敬司はくつくつと笑っている。そんな彼に弥世は、けーじおこられるの~? と不思議そうに首をかしげている。
「お前の年賀状欲しいやつ、ぎょうさんおるからな」
「そうなの~?」
「おん。俺がお前に書かせとらん思われとるみたいでな」
「ぶー……だって、たくさん文字書くとつかれちゃうもん~……あ!」
「なんや」
「文字書いたらつかれちゃうから、かわりに絵をかいてあげる~!」
「おお……ほな、これ、書くか?」
「書く~!」
ぶすぶすと膨れていた弥世が、きらきらと目を輝かせて提案する。挨拶を書くから疲れる。だから代わりにイラストだけ書く。ようはそういった彼女に、敬司は驚きはしたが、まあ俺が挨拶書いているから別に良いか、と輪ゴムでまとめた年賀状を差し出す。それを受け取った弥世は、うきうきでボールペンを走らせている。
一枚、また一枚とかわいらしい馬の横顔が書かれていく年賀状を見ながら、敬司は来年は早々に面倒な年上たちのぼやきが聞こえなくなったな、とぼんやり考える。
ふんすふんすと気合いの入った弥世を見ながら、なんか飲むか、と敬司が尋ねると、抹茶ラテ、と元気の良い声を返ってきたので、敬司はほなお湯沸かすか、と電気ケトルに水をくみに腰をあげるのだった。