MENU

【こわいくらいすき。】イースターエッグと宝探し

「んなけったいなことを、よぉまあ思いつくもんだ……」

 敬司は煙草を喫みながらあきれていた。理由は単純なことで、弥世がどこから聞きつけたのか、イースターだよ~、とにこにこしていたからだ。目に入れても痛くないほどには弥世を可愛がっている敬司だが、それはそうとして弥世が季節イベントに乗っかろうとするときは、たいていちょっと面倒なので、どっから聞きつけてきた、と小さな顔についたさわり心地のいい彼女の頬を、敬司の大きな片手でむにむにしながら問い詰めたのは少し前の話だ。
 りんちゃんから聞いた~、とむにむにされながらもご満悦な弥世に、また強く出にくい相手から……と内心敬司はため息をつく。腹心の部下の一人である真壁蓮の妻である凛は物静かで丁寧な性格だが、いかんせん臆病で引っ込み思案だ。大きな音や怒鳴り声に過敏なところもあり、よくまあ極道ものの旦那についてきたもんだ、と桐嶺会では七不思議のひとつにあげられることもしばしばだ。
 凛のことだから、おそらく弥世に春っぽい行事教えて、とくっついたまませがまれて、しかもなかなか離れなかったから、困り果ててイースターのことを教えたのだろう。もしかしたら、この間マンションのエレベーターホールで鉢合わせたときに、申し訳なさそうな顔をしていたのはこれのことか、と今更ながら敬司は気が付く。実に申し訳ない、とでかでかと顔に書いて、弥世よりやや小さな体をさらに小さくしていたのを思い出してしまって、敬司はそれとなく文句も言えへんわ、となってしまう。
 それはさておき、と敬司は煙草の煙を肺にいれながらリビングを見渡す。三面フルハイトガラスの広々としたリビングには、いつも通りの大型カウチソファーと天然木で作られた低めのローテーブル。壁一面の大型モニターとインテリアになじむようにデザインされたスピーカー。そしていくつかの観葉植物と季節の花々。
 振り返るとオープンアイランドのキッチン。無垢材と黒アイアンのダイニングテーブル。ダイニングテーブルの上に置かれたランチョンマットは、パステルグリーンで目に優しくも、春らしい色合いだ。

「はー……でも、ちゃんと探したらんと、弥世がすねるでかんわ……」

 灰皿に煙草を押し付けて火を消し、敬司はキッチンに向かう。
 なぜ彼がリビング、そしてキッチンを見渡していたかというと、弥世が宝探し~、と朝食を食べてすぐに言ったからだ。朝に弱い弥世が自分から朝食の準備をしていた時点であやしむべきだった、と思いながら敬司は、ほーか、とコーヒーを飲んでいた。弥世曰く、家に三つプラスチックのイースターエッグを隠したから、彼女がおでかけから戻ってくるまでに見つけること、だそうだ。
 あほらし、と思いつつ、弥世に甘い自覚のある敬司は彼女が隠していそうな――というよりは、がっつり隠しているのを目撃した場所に向かう。そこは衣類がおさめられている主寝室にある、大型のウォークインクローゼットだった。服をクローゼットから取り出した後も、弥世は妙に長く滞在していたのだ。それも、彼女の下着類が使い道ごとに分けて収められている収納ではなく、敬司の下着類の収納でごそごそしていたのだ。下着を使い道ごとに分けていれている収納の、一番上の引き出しを開けてみる。さすがに弥世もそこにはしまわなかったのか、きれいに収納されているボクサーパンツたちに乱れはない。
 
「まあ、ここに入れ取ったら、お前隠す気あったんか、って聞くところだわな」

 そう言いながら、敬司は次の引き出しを開ける。ハンカチが種類ごとに入れられているそこも、さすがに入ってはいなかった。仮に入っていたとしても、弥世がいれたのなら敬司が畳んだ時と同じようにきれいに畳めるとは思えないので、ボクサーパンツ同様なさそうだ。
 それなら一番下だろう。そう思って敬司が引き出しを開けると、ビジネスソックスたちが行儀よく並んでいるはずのそこは、やはりどこか触られた形跡が残っていた。弥世としてはきれいに入れなおしたつもりなのだろうが、不自然に盛り上がっている場所がある。引き出しを引っ張り出して敬司が膨らみを確認すると、その下にはずいぶんとかわいらしいサイズの卵がおさめられていた。敬司の手は、成人男性の平均よりも二センチほど大きいが、それにしたって卵のサイズはかわいらしい。弥世の成人女性の平均よりやや小さいぐらいの手のひらの半分もない大きさだ。

「これなら、まあ、靴下の下に置いてもわかりにくい、って思ったんやろな」

 よぉまた、こんな小さい卵に絵を描けるもんだ。
 そんなことを感心しながら、敬司は小さな卵をまじまじと見る。明るいパステルイエローの卵に、白いウサギや黒いウサギがかわいらしくデフォルメされて描かれている。卵の殻を被ったウサギもおり、被っている殻にもドット模様が入っているのを見て、敬司は目がしんどくなるわ、とあきれてしまう。
 卵をカーディガンのポケットにいれた敬司は、靴下をきれいに並べなおしてから引き出しを閉める。次にありそうなところといえば、どこだろうか。がっつり隠している現場を目撃したのはウォークインクローゼットだけだったので、ほかの二つの卵に関しては全く手掛かりがない。
 見渡しただけで創作していないリビングダイニングも確認するか、と敬司がウォークインクローゼットを後にする。三面フルハイトガラスの広々としたリビングには、いつも通りの大型カウチソファーと天然木で作られた低めのローテーブル。壁一面の大型モニターとインテリアになじむようにデザインされたスピーカー。そしていくつかの観葉植物と季節の花々が飾られている。オープンアイランドのキッチンはステンレスと御影石の天板がきれいに磨き上げられている。無垢材と黒アイアンのダイニングテーブルの上には、置かれたパステルグリーンで目に優しくも、春らしい色合いのランチョンマット。

「こないなところに隠すとしたら……まあ、ベタやが鉢植えか、食器棚あたりか……?」

 敬司は首をかしげて観葉植物の鉢に近づくと、しゃがみこむ。パキラとサンスベリアの鉢植えには、土の乾燥を防ぐためにバークチップを敷き詰めているが、どちらの鉢植えにも不自然なふくらみは見つけられない。念のためバークチップをどかしてみても、土に触れられた形跡はなかったし、バークチップの隙間にも入っていなかった。
 インテリア小物たちを見渡してみるが、特に違和感はなかったが、少し距離があったため、念のために近づいて確認する。
 アクリル製のフォトスタンドたちには弥世と敬司のツーショット写真がおさめられており、その隣にある透明な花瓶には、リューココリーネの花が飾られている。リューココリーネは敬司も知らなかったが、弥世がいつも飾るための花を買う花屋で、かわいかったから、と買ってきたものだ。紫に白の花びら、フチが紫で内側は白の花びらのものもある。香りもよくて、なかなかセンスのある花を選んできたな、と敬司は感心したものだ。
 リューココリーネをみていると、ふと視界の端にあるアクリル製のフォトスタンドたちの一つの裏に何かがあるのが見える。ちょうと、そのフォトスタンドがやや後ろにいつもおかれているために、花瓶に近寄るまで気が付かなかったのだ。フォトスタンドを持ち上げると、そこには先ほど見つけた卵と同じ大きさの卵が隠れていた。
 今度はマットなブラックで塗られた小さな卵だ。やはりそこには白やパステルカラーのウサギたちが描かれていて、デフォルメされた食べ物も描かれているという手の凝りようだ。

「あいつ、よぉこんな小さなモンに絵を描けるな……」

 ずいぶん小さな卵をまたカーディガンのポケットにしまってから、敬司は最後の一つはどこや、と頭の中に自宅の見取り図を描き始める。主寝室、リビングダイニング、ワインルーム兼パントリー、バスルーム、独立洗面所、書斎部屋。そのうちの主寝室とリビングダイニングはもう見つけたので、ほかのところだろう。ワインルーム兼パントリーもリビングダイニングに近いから隠されていない可能性がある。
 書斎か、洗面所の棚か……と考えたときに、一番簡単に隠しやすい場所は玄関ではないか、と敬司はひらめく。自分にでかけると声をかける前に、弥世は玄関に向かっていたのを思い出す。いつもならば声をかけてから玄関で靴を履き替える弥世なので、先に玄関にいったのはおそらく卵を隠すためだろう。
 そう予想をしてシューズクロークをあける。そこには敬司の革靴から運動用のスニーカー、レインシューズと一緒に、弥世のパンプスやスニーカー、レインシューズも並んでいる。シューケア用品を一度玄関の床に並べてから、敬司は靴をざっと見る。つま先を奥にしまっているため、履き口が手前を向いている。
 シューズクロークは特注品で、奥のほうが角度がついている。だからここに卵のようなものをいれると、どうしても手前に転がってしまう。しかし、敬司が弥世がいつもと少し違う動きをしていることに気が付かなければ、ここに隠してあることもバレないのだ。

「……お、あったわ」

 敬司が三個目の卵を見つけたのは、敬司が好んでいる革靴の中でも、何度か修繕をして履いているものだった。思えば、最初に弥世に出会ったときに履いていたのもこの靴だったかもしれない。そんなことを敬司が考えていると、ただいま~、と弥世が玄関を開けて戻ってくる。

「早いやないか。俺が卵探す時間、もっとくれへんのか」
「え~? だってぇ。けーじならもう見つけたと思ったんだもん~」

 ちがうの~、と首をこてんとかしげて見上げてくる弥世に、見つけたけどな、と言いながら敬司は彼女の唇に口づけを落とすのだった。

  • URLをコピーしました!